京急蒲田駅直結の皮膚科、たけうち皮フ科クリニック

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皮膚科医療ブログ

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毎日夜起こされる、激しいかゆみに効くアトピーの注射:ミチーガ(ネモリズマブ)

 アトピーのかゆみが激しく毎日夜起こされるのに、赤みやガサガサはそれほど目立たない状態には、注射ミチーガ(ネモリズマブ)が効果的です。この注射は、いくつかあるかゆみ経路のうち、IL-31という経路を遮断してかゆみに働きます。即効性も特長で、早いと、注射した日の夕方には効果を感じます。4週ごとに最低6か月を目安に打ち、かゆみが激しい時だけ、打ちたい時だけ不定期には注射できません。3割負担の注射代は1回約3万5千円で(現金払いのみ)、13歳以上に投与できます。自己注射はできません。
 この注射を打つには様々な制約があり*今まで使った飲み薬と塗り薬の種類と量、期間が条件を満たしていることを、薬手帳などで確認する必要があります。この条件を満たさないと、かゆみが激しくても注射はできません。注射が打てるかどうかをお答えするには診察が必要ですので、受付時間内にご来院ください。電話では、あいにくお答えできません。未成年の患者さんは、保護者の方が同伴ください。
 診察を受けミチーガ(ネモリズマブ)投与が適当と判断された場合は、薬が届くのを待って後日注射します。注射で良くなっても、ステロイド以外のプロトピック(タクロリムス)軟膏やコレクチム(デルゴシチニブ)軟膏などの抗炎症剤や、ヒルドイド(ヘパリン類似物質)などの保湿剤を適切に塗り続ける決まりがあります。
 飲み薬の免疫抑制剤シクロスポリン(1日薬価約80円)も、激しいかゆみに一定の効果があり有用です。ミチーガ(ネモリズマブ)と同様、IL-31を介したかゆみ経路に作用すると考えられています。塗り薬のタクロリムス軟膏も、発疹のないかゆみに一定の効果があります。
 かゆみに加え発疹も激しいアトピーには、デュピクセントという別の注射を使います。詳しくはこちら
* 最適使用推進ガイドライン:厚生労働省

● アトピーについて詳しくはこちら

アトピー性皮膚炎のかゆみ抑える薬 京大など治験で効果 朝日新聞
かゆみを標的にしたアトピー性皮膚炎の新規治療薬の有効性を確認  京都大学
世界初、かゆみを標的にしたアトピー性皮膚炎の新たな治療戦略 京都大学

2022-09-10 18:43:49

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デュピクセント(デュピルマブ) アトピーの注射

【よく効くのに内臓への負担がない】 注射のデュピクセント(デュピルマブ)は、 激しいかゆみと激しい発疹を速やかに良くします。最初打つと3日目から楽になり始め、2週間ごとに注射を続けると、4か月の時点で発疹が1割まで減る人は4割弱。優れた効果に加え注射なのに肌がしっとりし、かかなかった汗をかくようになり、内臓への負担や抵抗力を落とす副作用がないのも特長です。15才から使え、未成年の方は保護者とご一緒に受診してください。注意する点としては、喘息治療中の方は、注射開始後一時的に喘息の症状が無くなっても内科受診を止めずに続ける必要があります。また、注射を始めて何か月もたってから結膜炎になることがあります。多くは一時的な目のむずがゆさ程度の軽さですが、まれに目が赤くなりゴロゴロし眼科にかかっても何週間も治らないこともあります。
最初の1回でぐんと良くなり、2回目はそれ程良くならず、3回目は『これ以上良くならない』と感じる効き方をします。良くならない部分は、ステロイドとタクロリムスの塗り薬を使い分けて治します。

【よく効くが対症療法】 良く効きますが、対症療法であり病気を根本から治す薬ではありません。このため、2割の皮疹は良くなり切らず、塗り薬の併用が必須です。

【注射を打てる条件】 注射を打つには、顔や首あるいはある程度の範囲に激しい皮疹があり、適切な外用療法が施されているといった皮膚科学的要件を満たす必要があります。現在デュピクセントを打っており転居などに伴い当院での治療継続をお考えの方は、『投与開始時の治療要件と疾患活動性の数値』が記載された診療情報提供書(いわゆる紹介状)をご用意ください。
厚生労働省の最適使用推進ガイドラインに従い、日本皮膚科学会のガイドラインに準拠した標準治療を受けていることが必須です。

【受診当日に用意するもの】 塗っている薬の名前が分かるものをお持ちください。薬手帳、薬局でもらった説明書、無ければ今あるチューブや容器でも結構です。他院でデュピクセントを打ったことのある方は診療情報提供書が必要です。予約は不要で、条件を満たせば受診当日に注射しています。注射ができるかどうかなど、電話でのお問い合わせにはあいにく応じておりません。​

【注射の痛みは注入速度で加減できる】 思ったほど痛くなかったという人が多く、薬液の注入速度を上げると痛みますので、痛むときには教えてもらい、もっとゆっくりにすると楽になります。注射の仕組みには2種類あり、ピストンを使った手加減のできるシリンジタイプと、バネの力で自動で注入されるペンタイプがあります。ペンタイプは操作が簡単ですが注入速度がより速く、痛みを伴う方はシリンジタイプを選ばれます。初回は2本打つので、シリンジタイプで痛みが問題なければ、2本目はペンタイプを打ち、どちらが良いか選んでいただきます。痛みのためシリンジタイプを選ぶ方がやや多く、痛みは変わらずペンタイプの方が速くて楽だと言う方もいらっしゃり、人により違います。女性でペンタイプが使える人は、男性より少ないです。
 冷蔵庫から出してすぐ注射するのと、室温に戻してからと何人かの人で比べたら、痛さは同じとほとんどの方が答えましたので温度は痛さにそれほど影響しないようです(注射を室温に戻してから打ってもらいたい方は、診察券を受付に出すときにその旨お伝えください)。インフルエンザの予防接種と同じくらいの痛さだと思いますが、薬の量が多いので打っている時間は長いです。
 多くの人は腕に打ちますが、おへその回りが良いという人や、太ももが良いという人もいます。打つ場所はこの3か所と決まっています。

医療費助成制度 2週ごとの注射代は3割負担の方で1回約17,000円、初回のみ2倍の量を投与するため約34,000円かかります。様々な医療費助成制度があり(詳しくはこちらをご覧ください)、付加給付や高額療養費制度などを利用しながら皆さん治療されています。カードはあいにく扱っておらず、お支払いは現金のみです。
 高額な医療費を支払ったときは高額療養費で払い戻しが受けられます(社会保険) 全国健康保険協会
 自己負担限度額がさらに引き下げられる多数該当高額療養費
 高額療養費(国民健康保険) 大田区
 医療費控除 国税庁

【良くなってもタクロリムスを塗り続けないと、再びかゆくなる】 注射だけでは8割程度までしか良くならず、止めるようになるには薬の塗り方が鍵を握ります。良くなっても潜在する炎症にタクロリムス軟膏を、それ以外の全身の広い範囲に保湿剤を十分量塗り続けないと、注射を止めた後にぶり返すことが経験されます。長い間注射を打ち続ければ、治り切るまで少しずつ良くなり続けるという効果はありません。

【注射はいつまで打つか、止めたらどうなるか】 注射を止めるタイミングとして、2週ごとの注射に塗り薬を併用し、良い状態が6か月続いたら一時中止してもよいという目安があります*。ずっと続けても良い注射で、良くなったら止めなければいけないわけではありませんが、多くの方はできるならいつかは注射を止めたいとお考えです。当院で注射を止められた方は、タクロリムス軟膏を1日1本のペースで、良くなってから最低6か月悪かったところに塗っていました。そうしないと、注射を止めて3~6か月くらい経ったり汗をかく夏になると、激しい発疹のあったところからぶり返し、再び注射を打たざるをえないことがしばしば起こります。薬の塗り分けが苦手なため、ステロイドあるいはタクロリムス1剤だけをその時々塗って止められた方もいらっしゃいます。
 逆に、止める条件はそろっていても、運動で汗をかいてもかゆく無く夜も眠れ、仕事の能率が上がった状態を維持したいとおっしゃり、注射を続ける方もいらっしゃいます。
 注射の成分は2か月たつと体の中から無くなりますので、最後に打ってから3か月たっても悪くならなければ、ひとまず塗り薬でいけます。一旦止めた注射は、いつでも再開できます。

2週間の投与間隔を長くできるか】 投与間隔を3週間や1か月ごとに計画的にあける治療は、当院ではあいにく受けられません。症状安定後2週間隔の投与間隔を延長できる旨の記載が、国、学会のガイドライン、添付文書のいずれにもないからです。投与間隔をあける治療計画や、悪い時だけ注射することを保険者は容認せず、保険金が支払われないことが実際にあるからでもあります。
 出張、旅行や入院などのため、投与間隔が医療保険の許容範囲内で時々あくのは差し支えありません。
* 添付文書最適使用ガイドライン

【自己注射による治療の効率化】 ご自身や家族が自宅で注射する自己注射により、通院頻度を減らせるため多くの方が活用しています。診察室でできるまで練習し、必要な資材は無料で提供します。自己注射の開始時期は、治療効率を考えるなら塗り薬により発疹がほどんど良くなった頃が目安ですが、治療のコツさえつかめればもっと早くから始めることもできます。注射は処方箋を使って調剤薬局で受け取り、注射薬は専用の保冷バッグにいれて持ち帰ります。行きつけの調剤薬局に、取り寄せてもらえることを事前にご自身でご確認下さい。冷蔵保存の薬ですし、処方箋を出してから取り寄せて翌日以降の受け取りですので、自宅近くの調剤薬局が良いと思います。塗り薬は次回受診日までもつだけの量を処方しますが、皮疹が残っている最初のうちは、時々受診され治り具合を医師と確認した方が治療ははかどります。自己注射は1回につき最長3か月分処方でき、上記の医療費助成制度を利用すると自己負担額を抑えることができます。
 受け取った注射は冷蔵庫で保管しますが、常温で長期間放置しない限り効果は失われないようです。建物の点検などで停電が予定される際は、念のため保冷剤で冷やしておいて下さい。

【病院をかえるときは紹介状をご用意しています】 引っ越しなどで別の病院でデュピルマブ(デュピクセント)を継続する際は、診療情報提供書(いわゆる紹介状)を当院では書いています。次にかかる病院が保険請求するのに、『投与開始時の治療要件と疾患活動性の数値』を必要とするからです。

【デュピルマブ(デュピクセント)ほど高くない、激しい症状用の飲み薬】 1週約600円とより手ごろなシクロスポリンも、塗り薬で良くならない辛い症状に効果があります。3~5日飲むと効果が実感できますので、その後は毎日飲むことも、悪い時だけ飲むこともできます。副作用として腎臓への負担と高血圧がありますが、40歳代までの方が数週間飲んで副作用が出ることはまずありません。また、菌への抵抗力は弱める方に働きますので、風邪気味だったり体調が悪い時には止めてください。このようなときに飲み続けると、突然38℃の熱が出たりします。毎日3か月連続して飲んだら2週間休むよう勧められています。飲み薬のシクロスポリンから注射のデュピルマブ(デュピクセント)に変えることも、その逆もできます。

激しいかゆみで毎日夜起きるが、発疹はそれほどひどくない状態のアトピ-には、ミチーガという別の注射があります。詳しくはこちら

● アトピーについて詳しくはこちら

アトピー性皮膚炎に10年ぶりの新薬 その実力は? 日経ヘルスUP

アトピー性皮膚炎は注射でかゆみを劇的に軽減 10年ぶり「新薬」の実力とは? Aera.dot

難治アトピーに初のバイオ医薬品 適切な治療法、改善への第一歩 産経新聞

アトピー新薬の効果高いが…未来を変えるアンメット・メディカル・ニーズ最前線 日経ヘルスUP

アトピーと生きるということ 「心の持ちよう」という薬(生後2か月からアトピーの記者の手記) 朝日新聞

アトピー新薬を記者が使う 生活は改善も高い注射代 日経スタイル
 

2022-09-04 10:50:28

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『水イボを、みてもらってきてください』と言われました:誰に頼めばプールに入れるか

・ 皮膚科学会は”プールOK”
・ それでもなる、納得できない雰囲気
・ 医師と行政が手をこまねく問題のありか
・ 水いぼも、感染してはいけない病気ではないと考えられるのではないでしょうか
・ 取れば1回で治るか|徐々に大きくなり、赤く腫れた後に消えて無くなる|何科に行けば、園が納得する説明をしてくれるか
・ 正論は沈黙し、不安が極論に拍車をかける
・ 誰に頼めばプールに入れるか:感染防止対策の真相と収拾

小児科学会は”自然に治るので放置してよい”
 『(水いぼが)うつるものかどうか、水遊びができるよう、みてもらってきてください』とほのめかされたが、どうしたらよいかと相談を受けることがあります。水いぼはウイルスが原因で、幼児が集団で生活すると知らずにうつし合っている、あっても何か月も気づかないこともある、誰でもかかりうるごくありふれた症状です。米国では、年間600万人がかかるとされています。原因ウイルスに効く薬は無く、『自然治癒傾向があり放置してよい』と小児科学会が言うように、一時的に数が増えても自然と治るのを数か月から1年前後かけて待ちます。アメリカ皮膚科学会も、自然に治るので治療の必要は無いとしています。英国の調査では自然に治るまで平均13か月、13%は2年経過後も治っていなかったとしていますが、医療の置かれた環境は国により異なり、日本ではもう少し早く治っている印象を受けます。2年にわたって夏のプールで、園から水いぼを指摘されたという人が1割はいないと感じますので。

皮膚科学会は”プールOK”
 水いぼがあっても、プールは入れるとする公式見解があります。しかし、実際の対応は施設によって異なり、何も言われないところから、取らないと水遊びができなかったり、プールに入れてもらえないところまであります。様々な相談を受けますが、ある園医が『治りにくいことがあってもそんなに心配することは無い』と言うように、水いぼは感染してはいけない特別な病気ではありません。ましてや、お子様の水いぼがお友達にうつしうつされ迷惑をかけ合うなどという考えは、地震で動物園からライオンが逃げたというフェイクと同様決してシェアしてはいけない誤解に過ぎません。ウソの拡散速度は真実の20倍だそうで、みんなが言っていても間違っていることはあるのです。上述の園医が示唆するように、水いぼがある子も無い子と同じように、とりたてて問題にすることなく接する時代になりました。

東京都大田区は、区立保育園、私立保育園、小規模保育所、認証保育所へプール禁止にはあたらないと周知し、私立幼稚園には指導を行わず園の判断に委ねているとしています。区民の声 広聴・相談1年の記録 NO.64 P15(平成28年4月から平成29年3月)

それでもなる、納得できない雰囲気
 事の始まりは、園で、『水いぼがあると困る』と感じるニュアンスのこと(放っておくと大変なことになりますよ、今年はプールは無理だね)を言われます。そこで病院に行くと医師は、『放置してよい』と何の役にも立たないこと言うので困り果てるというわけです。これを解決するには防水テープを貼ればよいのか、ラッシュガードを着ればよいのか、取らないと駄目なのか、おかしいとは思いますが親が園に忖度する以外ありません。
 このようなおかしなことが起こる背景には、あってはならぬことですが、我が子に水いぼがうつらぬよう厳格な感染対策が必要との根拠のない誤解があります。そのため園としては、保護者から苦情が来ないよう対策を講ぜざるを得ないのではないかと思われます。『水いぼのためプールに入れてもらえない』、『水いぼを指摘され困っている』という保護者の方は少なくありませんが、医療機関は個別のケースごとに保護者の方の後ろ盾になり、プールにいれてもらえるよう、あるいは自然に治るまでそっとしてもらえるよう園との交渉を残念ながらしていません。公にできない事情を、園が抱えているかもしれないからです。
イソジンを買ってきて綿棒で水いぼに毎日つけると、1~2週間して消えることがあります。これは、イソジンで起きた炎症が水いぼウィルスを退治するからです。のどが腫れて、風邪が治るような反応です。必ず消えるわけではありません。

医師と行政が手をこまねく問題のありか
 このような事態の収拾を図ろうと、厚労省の感染症対策ガイドライン見直し検討委員も歴任した上述の園医は、『保護者の方が水いぼは取ってきてほしい、一緒にプールに入りたくないということなら、その親御さんの子どもが(プールに)入らなければ済む話ではないか。ラッシュガードを徹底する保育園もあるが、そこまでやらなくてもよろしいのではないか。ビート板を介してうつる可能性はあるかもしれないが、一般的に少ないと思う』と発言しています。別の小児科医からは、『医学的に根拠のないプール禁止は人権侵害・差別とも考えられることを、学校・幼稚園・保育園・スイミングスクールの責任者には理解いただきたい』とする意見も聞かれます。お二人とも、自然治癒するまでの放置が推奨されている水いぼの存在を、わざわざ診察室以外の場で指摘しても保護者を困惑させるだけで、メリットがあるとは思えないのでそっとしておくよう啓蒙しているのです。
 良かれと思い、耐水性ばんそうこう等で覆ったり、見えている部分だけ水いぼを取るなどの対策を施すと、『自然治癒傾向があり放置してよい』との小児科学会の見解はないがしろにされ、症状のある人に感染対策を施さなければいけない病気との誤ったメッセージとして受けとめられ、それが尾ひれをつけながらあらぬ方向に一人歩きするのが問題です。例えば、 『医師からイボの除去は適切ではないと診断されたにも関わらず、園からは激しい痛みを伴う除去を求められています。医師の診断に従い除去しなかった子どもたちやその家族は、他の保護者たちからいわれのない非難を浴びることがあります』という自治体が公開する市民からの投稿は、問題の根深さを物語っています。差別や偏見がないようにとの配慮*にもかかわらず。
*児童生徒等に対する出席停止の措置等によって差別や偏見が生じることのないように十分に配慮する必要があります(厚生労働省:保育所における感染症対策ガイドライン、2018)、感染症にかかっている又はその疑いやおそれのある児童生徒、教職員等が差別・偏見の対象となることがないよう十分な配慮をすることも必要です(公益財団法人 日本学校保健会:学校において予防すべき感染症の解説、2018
 
水いぼも、感染してはいけない病気ではないと考えられるのではないでしょうか
 水いぼは、ウイルスが原因の感染症で治療法と予防法は確立されていません。しかし、自然と治り、感染してもインフルエンザのような激しい症状は出ません。このような、乳幼児の集団生活施設において現実的な感染対策が無く、軽い症状だけで治ってしまう多くの人がかかる感染症に手足口病があります。手足口病について、厚労省は「感染してはいけない特別な病気ではない」とホームページに公開しています。水いぼも、感染してはいけない病気ではないと捉えられるのではないでしょうか。
 
取れば1回で治るか徐々に大きくなり、赤く腫れた後に自然と消えて無くなる何科に行けば、園が納得する説明をしてくれるか
 水いぼは取らないと、水遊びをさせてもらえなかった時代がありました。今でも、麻酔のテープを貼ってピンセットでむしり取る方法はありますが、取っても目に見えないウイルスがいて、しばらくするとまた出てくることがほとんどです。麻酔テープを使っても痛みが全く無くなるわけではなく、血が出るので恐怖感も手伝って結局は『怖い、おうちに帰ろう』と泣き叫ぶことが少なくありません。服に覆われていないところは取るよう言われてのことなのでしょうが、お顔はお願いされても取れません。大きいから、何か月も消えないから、人にうつさないよう取った方が良いという医学的根拠はありません。また、水いぼが炎症を起こして赤くなるのは化膿しているわけではなく、免疫力が働いて自然と治るときにみられる、蚊に刺されて赤くなるのと同じような反応ですので、プール禁止の医学的根拠にはなりません。
 このような保護者や医療機関の立場は、園の管理職にもご理解いただきたい点です。保護者は園に指摘されるたびに複数の医療機関を何度も受診し、「ウイルスが原因でも、感染対策は不要。自然治癒するまで放置してよい」との同じ説明を受け続ける実態があるからです。「うつるものかどうか、あるいは赤く炎症を起こした発疹を医療機関で診てもらうよう」保護者にたたみかけても、「うつされたもの(であり、患児と保護者には何の落ち度もありません。放置してよく、覆うなどの感染対策の必要は無く、プール禁止など園の活動を制限する根拠となりません)」と説明するのが関の山です。園の置かれた立場を考えると、「他人にうつさないよう、覆って隠すか麻酔のテープを使って取る必要があります。新しく出なくなるまで通院し、処置を続けプールは禁止です」、といった説明をお望みと想像しますが、そのような説明をする医療機関はおそらくありません。園が不条理だが公言できない事情をお抱えになり、お困りであろうことは重々承知しておりますが、これ以上の診療は医学的見地から逸脱し困難です。
 不条理な事情のため園は水いぼを指摘せざるを得ないのでしょうが、わざわざ指摘する意味などないのではないかという親御さんの疑問を、感じることがあります。それは、最近は減りましたが、どこの病院に行っても治らず、水遊びをさせてもらえずひと夏を過ごす子供を抱えて、何とかならないかと夫婦であるいは祖母と一緒に来院されるご家族を、私を含め多くの医師は毎年夏になると診察してきたからです。言われなく疎外され、医者をはじめ回りの誰も手を差し伸べず、さぞかし寂しい思いをさせたはずです。そのつもりが無くても、結果的に水いぼのある方に無用な負担を強いるのは、もう終わりにしたいものです。
 
正論は沈黙し、不安が極論に拍車をかける
 いつまでも決め手に欠く方法の不毛な議論が、それも人目にさらされる夏の間に限って繰り返されるのは、うつることに対する根拠のない不安と誤解に振り回されているだけなことに、そろそろ社会は気づくべきです。水いぼを覆ったりプール禁止にしても効果は無く、毎年新たに水いぼになる子がいたことは医師も保育者も良く知っています。不十分な感染防止対策が、水いぼの原因では無いのです。
 取ると減って気が楽になりますが、目に見えない潜伏期のウイルスが残っていて、多くの場合しばらくすると別のところに新しく出てきます。ハトムギで治ったとおっしゃるお母さんが見せてくださいましたが、気づかないだけで他の場所に新たにできており治っていませんでした(ハトムギは、水いぼに効能・効果はありません)。水イボへの有効性が科学的に証明された方法はなく、お勧めできる確実な方法は初めからなく、幼児が集団生活を送れば感染は避けられないのです。

誰に頼めばプールに入れるか:感染防止対策の真相と収拾
 園を管轄する行政は、一定の感染防止対策が必要としています。厚生労働省は、「皮膚が接触することにより周囲の子どもに感染する可能性がある。このため、伝染性軟属腫(水いぼ)を衣類、包帯、耐水性ばんそうこう等で覆い、他の子どもへの感染を防ぐ」と、保育所における感染症対策ガイドラインに記載しています。同様に、日本学校保健会は「直接肌が触れると感染するため、露出部の水いぼは覆ったり、処置したりしておく」と、学校において予防すべき感染症の解説に記しています。
 感染防止対策をとる理由を行政は説明していませんが、放置してよいとの社会的合意が得られていないからではないでしょうか。保護者から「園でうつされる」という声が聞こえるうちは、「我が子が水いぼになった原因は、園が感染防止対策を怠ったことにあるので、国は責任を取れ」と言われかねないと行政は気にかけると思います。そう言われないよう、「一定の感染防止対策を取らざるを得ず、水いぼがあるとプールは入れません」という立場に、実務を担う園を追いやってしまうのではないでしょうか。「水いぼは感染してはいけない病気ではない」との社会的合意が今後形成されれば、取り立てたことは起こらなくなるはずです。結局、プールに入れるように誰がしてくれるのかと言ったら、それは主権者である国民すなわち保護者の皆さんなのです。
 感染症は、過去から新型コロナウイルス(新型コロナウイルス感染症に関する偏見や差別を防止するための法律)に至るまで、差別の歴史をきざんできました。「ウイルスは、人のやさしさを嫌う」と元WHOの専門家が説くように、思いやりが水いぼをやっつけます。水いぼを探し出して差別していたのでは、バイキンマンの思う壷です。新型コロナでも言われるように、正しく知り、間違って恐れることのないようにしたいものです。

 

2022-02-11 16:44:22

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水いぼはプールNGだった昭和

◆ あらまし
 昭和は、小さい子の水いぼは取らないとプールに入れてもらえない時代でした。しかし、その後『自然治癒傾向があり放置してよい』との小児科学会の考え(1)が行き渡り、タオルなどを共有しなければプールに入れ、ジクジクしたりかゆみが無ければ放置し、普段通り過ごせるようになり長らく経ちます。ある園医が『治りにくいことがあってもそんなに心配することは無い。ラッシュガードの徹底までしなくてもよろしいのではないか。ビート板を介してうつる可能性はあるかもしれないが一般的に少ないと思う』と言っているように(2)、水いぼは感染してはいけない特別な病気ではありません。ましてや、お子様の水いぼがお友達にうつしうつされ迷惑をかけ合うなどという考えは、地震で動物園からライオンが逃げたというフェイクと同様決してシェアしてはいけない誤解に過ぎません。上述の園医が示唆するように、時代は、水いぼがある子も無い子と同じように、とりたてて問題にすることなく接するようになりました。
 水いぼは、肌を触れ合う集団生活を送る幼児には、一年を通じてみられます。夏にだけ、目についた水イボに負担のかかる対策を講じる意味などないのです。うつされたくなかったら、集団生活を送らぬ以外に有効な方法はなく、これが、『我が子にうつらぬよう取ってきてほしい、一緒にプールに入りたくないと言うのなら、(水イボのあるお子さんを問題にするのではなく)そうと言う親御さんのお子さんがプールに入らなければ済む話ではないか』とする、厚労省の感染症対策ガイドライン見直し検討委員も歴任した上述の園医(2)の論拠です。別の小児科医からは、『医学的に根拠のないプール禁止は人権侵害・差別とも考えられることを、学校・幼稚園・保育園・スイミングスクールの責任者には理解いただきたい』(3)とする意見も聞かれます。お二人とも、自然治癒するまでの放置が推奨されている水いぼの存在を、わざわざ診察室以外の場で指摘しても保護者を困惑させるだけで、メリットがあるとは思えないのでそっとしておくよう啓蒙しているのです。
 良かれと思い耐水性ばんそうこう等で覆ったり、見えている部分だけ水いぼを取るなどの対策を施すと、『自然治癒傾向があり放置してよい』との小児科学会の見解はないがしろにされ、感染対策を施さなければいけない病気との誤ったメッセージとして受けとめられ、それが尾ひれをつけながらあらぬ方向に一人歩きするのが問題です。例えば、 『医師からイボの除去は適切ではないと診断されたにも関わらず、園からは激しい痛みを伴う除去を求められ、除去しないと他の保護者からいわれのない非難を浴びることがあります』という自治体が公開する市民からの投稿は(4)、問題の根深さを物語っています。差別や偏見がないようにとの配慮*にもかかわらず。
*感染症にかかっている又はその疑いやおそれのある児童生徒、教職員等が差別・偏見の対象となることがないよう十分な配慮をすることも必要です(5)、児童生徒等に対する出席停止の措置等によって差別や偏見が生じることのないように十分に配慮する必要があります(6)

◆ プール禁止の公式見解は無い
 毎年夏になると、「水いぼを指摘されたが、対処する必要があるか」との相談が寄せられます。
 水いぼのためにプールを禁止する公式見解はなく(1、5-7)、小児科学会は『自然治癒傾向があり放置してよい』と明言しています(1)。プールに入る時の一定のルールは無く、多数ある場合はタオルや浮輪を共有しない(1)、水いぼを衣類、包帯、耐水性ばんそ うこう等で覆う(6)との記載も見受けられます。放置して良いのですが、麻酔のシールを貼ってピンセットで取る方法もあります。当院でも事情を抱えた保護者の方に請われて致し方なく取ることはありますが、ピンセットでむしり取っても確実に治るとは限らず、以下の様な限界や疑問も投げかけられてきました。
 
① 水いぼを取ればプールに入れてもらえますが(8)、目に見えない潜伏期のウイルスはどこにいるかわからず、取れば水いぼウイルスはいなくなるという科学的根拠はありません。
② 周囲の大人が見つけた水いぼ罹患児はその一部に過ぎず、感染経路は肌を接触する小児の集団生活にあるためプールのみを禁止しても感染拡大は阻止できない(9)。
③ 取れというのは残酷(1)。なぜなら、麻酔のシールを貼っても全く痛くないわけではなく、子供は取られるという恐怖に襲われますし、取って出た血を見てさらに怖がるからです。また、取った跡が、へこんだ跡として残ってしまうこともあります。あるお母さんは、『自分自身、子どもの時に水いぼを取られたことが、トラウマとして残っている』と話してくださいました。『(水いぼをとらないとプールは入れないとは)理不尽だが、人質に取られているようなものなので従うほかない』と嘆いて、わが子の水いぼを取りに来たお父さんもいました。
 
◆ 多様な意見
 『自然治癒傾向があり放置してよい』(1)と小児科学会が明言する一方で、『数が少ないうちに取るのがよい』(8)と考える医師もいます。また、プールは入って構わず(7)、少ないうちに取ったほうが良いとする医師もプールは入れると唱えています。さらには、『保護者の方が取ってきてほしい、一緒に入りたくないということでしたら、その親御さんの子どもが(プールに)入らなければ済む話ではないか』(2)との意見も聞かれます。確かに言われてみると、対策を講じたために水いぼが減ったり無くなったとする医学専門家の話も、逆に対策を講じない施設で明らかに水いぼが増えたという話も耳に入ってはきません。
 このように、水いぼをめぐる医師と保護者、園からの意見はほぼ出し尽くされた感があります(1、2、8、10-13)。そこから導き出された結論は、子どもにストレスのかかるほどのプールの禁止は行き過ぎ(14)、統一見解はこれから形成される(15)とする以上に踏み込んだものはなく、水いぼは保護者と園が話し合って下さいというのが行政の立場のようです(4、14)。『水いぼのためプールに入れてもらえない』、『水いぼを指摘され困っている』という保護者の方は少なくありませんが、医療機関は個別のケースごとに保護者の方の後ろ盾になり、プールにいれてもらえるよう、あるいは自然に治るまでそっとしてもらえるよう園との交渉を残念ながらしていません。公にできない事情を、園が抱えているかもしれないからです。

◆ 水いぼにどのように向き合うか
 感染症ではあるが自然に治り、ウイルスがうつってから症状となって気がつくまで何週間も何か月もかかり、見つけた発疹が感染源の大半を占めるとも考えられず、感染経路を絶つ有効な方法もない水いぼに、私達はどのように向き合ったら良いのでしょうか。水いぼの次に揚げるような性格、
① 早期に取っても、新しく出てくることは少なくない。
② 自然治癒までの期間は多くの場合医療機関受診後、数週間から1年程度と一定しない。
③ イソジンを塗ると治ることがある。 
は以前より知られていますし、園医がプールは禁止しないと明言しうまくいっている地域もあるようです(7)。中には、うつる病気と聞いて様々な誤解や不安を抱く方もいらっしゃるかもしれませんので、周囲の人全てが納得する解決策を診察室の中だけで打ち出すのはそもそも困難です(15、16)。ですから、解決の糸口をつかむには社会で話し合うこと(14、16)も大切ではないかと感じます。

◆ 水いぼも、感染してはいけない病気ではないと考えられるのではないでしょうか
 水いぼは、ウイルスが原因の感染症で治療法と予防法は確立されていません。しかし、自然と治り、感染してもインフルエンザのような激しい症状は出ません。このような、 乳幼児の集団生活施設において現実的な感染対策が無く、軽い症状だけで治ってしまう多くの人がかかる感染症に手足口病があります。手足口病について、厚労省は「感染してはいけない特別な病気ではない」とホームページに公開しています(17)。水いぼも、感染してはいけない病気ではないと捉えられるのではないでしょうか。


Blog:『水イボを、みてもらってください』と言われました:誰に頼めばプールに入れるか


 参考文献・出典
 1.学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説 2021年改訂版、P38:日本小児科学会 2022年1月アクセス
 2.財団法人母子健康協会 2016年8月アクセス
 8.みずいぼ 日本小児皮膚科学会 2016年12月アクセス
 9.新潟県小児科医会 2016年8月アクセス
10.地域における幼稚園、保育園の伝染性軟属腫への対応と地区医師会の取り組みについて:日本臨床皮膚科医会雑誌:31(3)、401-408、2014.
11.
水いぼが止まらない:YOMIURI ONLINE、発言小町、2016年12月アクセス
12.子供の水いぼ、プールについて:YOMIURI ONLINE、発言小町、2016年12月アクセス
13.水いぼ、どうしたらいい?:朝日新聞デジタル apital、2016年12月アクセス
14.厚生省保育課(要原典)
15.委員会報告「学校感染症 第三種 その他の感染症:皮膚の学校感染症とプールに関する統一見解に関する解説」に関する質問に対する回答:日本皮膚科学会雑誌:125(10)、1919、2015.
16.
水いぼ摘除の前に考えるべきこと 日本小児科医会乳幼児学校保健委員会委員長に聞く 2019年7月アクセス
17.手足口病に関するQ&A:厚生労働省、2020年7月アクセス


 

 
 

2022-02-11 16:43:57

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手足口病は登園できますか

 手足口病は発疹があっても、口の中が痛くて水や食事がとれなかったり熱がなければ、登園できます。
 手足口病は、手の平や足の裏に、小さな米粒の様な形の細長い赤いポツポツが出たり、口内炎のような発疹が口の中にできる、ウイルスが原因の病気です。このような症状は感染しても必ずしも現れず、発疹は無いのにウイルスを出しながら登園していることがあります。うつるかどうかを発疹の有無で区別できませんので、たまたま症状のでた人だけを登園禁止にしても、感染防止効果はなく非現実的と国は考えています。ウイルスが原因と聞くと、人にうつさないための隔離を考えがちですが、手足口病は知らずにほとんどの人が子どもの間に感染して免疫をつけてきたことでもあり、感染してはいけない病気ではないと厚生労働省はホームページで広報しています。
 そんなわけで、発疹があっても熱がなく、食事がとれていれば保育園や幼稚園に行けます保育所における感染症対策ガイドライン:厚生労働省、P54学校において予防すべき感染症の解説:日本学校保健会。休まなければならないのは、口の中が痛くて水や食事がとれなかったり熱があるときです。その場合でも、医師が記入する登園許可証や治癒証明書は不要とされています(保育所における感染症対策ガイドライン:厚生労働省、P39)。
 予防対策として、外から帰った後や食事の前、トイレの後やオムツ交換後の手洗いが大切です。治った後も便に混ざってウイルスが排泄されることがあり、感染源となりうるからです。
 手足口病が治って2~3か月後、忘れたころに爪が変形することがあります。自然と元のきれいな爪に生え変わりますので、放っておいて結構です(手足口病後の爪変形・爪甲脱落症:国立感染症研究所)。

 
注目すべき感染症 手足口病 国立感染症研究所 2021年

2021-11-14 17:39:35

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帯状疱疹の予防ワクチン

いずれの帯状疱疹のワクチンも、新型コロナワクチンとは13日以上あいていれば打てます。

目次
帯状疱疹は予防できる
2種類ある予防ワクチン
どちらのワクチンを選ぶか|打った方が良いか
弱毒生ワクチン
シングリックス
帯状疱疹は増えている
公費助成
製薬会社の一般向け説明

帯状疱疹は予防できる 帯状疱疹は80才までに3人に1人がかかる、ご高齢になると症状が激しくなる傾向のある病気です。かかった人を苦しめるのが、時に顔をしかめるほどの神経痛です。神経痛は痛みの程度に差はあれ、50才以上の2割の方に3か月以上続きます。帯状疱疹はワクチンで予防でき、2016年から使われているワクチンは、帯状疱疹の発症率低減と重症化予防効果をあわせもちます(国立感染症研究所:帯状疱疹ワクチンの導入について)。帯状疱疹発症数のピークは60才代、発症率のピークは女性は70才代、男性は80才代にあります

2種類ある予防ワクチン 帯状疱疹のワクチンには2種類あり、一つは1才の子が打っている水ぼうそうのワクチンと同じ弱毒生ワクチン、もう一つは予防効果が優れたシングリックスです。それぞれの特長は、弱毒生ワクチンは発熱などの副反応がないこと、シングリックスは効果の高さと持続性にあります。当院では、いずれのワクチンもお選びいただけ、予約不要で来院当日に接種しています。

どちらのワクチンを選ぶか|打った方が良いか シングリックスの効果が優れているのは、新型コロナウイルスのワクチンのようにウイルスに対する抵抗力が付きやすいよう工夫がされているからです。このため、発熱や倦怠感、肩の痛みなどの副反応が一定の頻度で起こり、2回接種し費用も高額です。しかし、それでも、帯状疱疹になった時の苦しさと仕事や日常生活への支障、治療費などの出費を考えてシングリックスを選ばれる方が増えています。優しさが特長の弱毒生ワクチンも、変わらず選ばれています。各々のワクチンの特徴などは、医師に直接お尋ねください。
 打った方が良いかどうかは、お一人お一人でお決めいただくことで、国はそのことについて何ら触れていません。打つかどうかお迷いなら、感情的には打った方が良いと思います。理屈を述べますと、予防効果のあるワクチンを国が勧めないのは、国民が過去に国を訴えるなど慎重な対応を国に求めてきたからです。このことが影響して、世界的に普及しているワクチンが日本では受けられなかったり、補助金が無いなどのワクチン・ギャップが過去に問題となりました。
 一方、60才以上の3人に1人がいずれかのワクチン接種を済ませているアメリカでは、日本より10年早い2006年に弱毒生ワクチン接種を始めました。国により医療事情は異なりますので単純に比較はできませんが、アメリカでは弱毒生ワクチンを打った人にもシングリックスの接種を勧めシングリッスを打てる年齢に上限はないとしています。シングリックスをご高齢の方にも勧める理由として、高齢になるほど帯状疱疹と神経痛にかかりやすくなるため、その分しっかりと予防する大切さをあげています。弱毒生ワクチンは接種年齢が進むと予防効果が落ちる欠点があり、60~69才の方が接種すると64%ある予防効果は、70~79才の方が接種すると41%に下がります。かたや、シングリックスは70才以上の方が接種しても、91%という効果の高さが特長です。このような背景から、アメリカでは2017年にシングリックスが認可されると、2020年から弱毒生ワクチンは使われなくなりました

弱毒生ワクチン
◆ ワクチンを打てる方
  50才以上の方。
◆ ワクチンを打てない方
  ステロイドや免疫抑制剤を飲んでいる方、熱のある方、重い急性疾患にかかっている方。
◆ 効果
  帯状疱疹の発症率は半減し、発症しても症状は軽く済みます。
  3か月以上続く神経痛の発症率は、6割以上減ります。
  予防効果は接種年齢が進むに従い落ち、60~69才の方が打つと64%ありますが、70~79才だと41%、80才以上では18%に下がります。
  効果は8年もちます。帯状疱疹の発症を接種1年以内は68.7%減らしますが 8年後は4.2%しか減らせなくなります。帯状疱疹の発症を阻止する効果は8年で、帯状疱疹や神経痛に伴う生活の質低下をやわらげる効果は10年で、統計学的に失われます。
◆ 副反応
  注射部位の発赤 40%、腫れ 20%。
  いずれも、インフルエンザのワクチンのように自然とひきます。
◆ 他のワクチンとの間隔
  新型コロナワクチン 13日以上あいていれば打てます (新型コロナウイルス感染症に係る臨時の予防接種実施要領 P7)
  インフルエンザワクチンなど、不活化ワクチンの接種間隔に制限はありません。接種間隔のルールについては、こちらをご覧下さい。
◆ 注射の回数
  1回
◆ 費用
  6,000円(現金払いのみ)。予約不要。
◆ 弱毒生ワクチンの追加投与
  何年経ったら追加投与したら良いかについての指針などはありませんが、8年とか10年とか経ったらまたワクチンを打って差し支えありません。安全性は高く追加投与して健康被害が出るようなことはまず考えられませんが、接種年齢が進むにつれ予防効果は落ちます。
◆ シングリックの追加投与
  弱毒生ワクチンを接種した場合でも、後になってシングリックスを追加投与できます。アメリカでは、弱毒生ワクチンを接種した方にシングリックスを打つよう勧めています。

シングリックス
◆ ワクチンを打てる方
  50才以上の方。
  以下の方も打てます:弱毒生ワクチンを既に打っている方、帯状疱疹になったことのある方、子供の時に水ぼうそうにかかったかどうかわからない方
◆ ワクチンを打てない方
  熱のある方、重い急性疾患にかかっている方。
◆ 効果
  帯状疱疹の予防効果は50~69才で97%、70才以上でも殆ど落ちず91%。
  3か月以上続く神経痛の予防効果は50~69才で91%、70才以上でも89%。
  ウイルスに対する抵抗力は、10年経ってもほぼ保たれます(何年たったらまた打たなければならないかは、実際に使われ出したのが2017年で長期使用経験がありませんので、今後明らかにされます)。
◆ 副反応(発生頻度は新型コロナワクチンより低く、例えば発熱は新型コロナワクチンでは1~15%程度ありますが、シングリックスでは0.3%と稀です。)
  日常生活を送れない程度のもの:発熱 0.3 %、疲労 4.5 %、筋肉痛 4.5 %、注射部位の痛み 4.5 %。
  日常生活への支障を6人に1人が感じ、その多くは2~3日で治りますが、副反応を完全に感じなくなるまで長いと5~7日かかることも時にあります。
  わずかなものを含めると、約半数に起こります。
  発熱や腕の痛みが出たときのために、解熱剤(アセトアミノフェン/カロナール)をお渡しします。熱が出ないようにと、予防のために飲まないで下さい。
  翌日に熱がでても、差し支えない日を選んでの注射をお勧めします。
  注射当日は、激しい運動をお控え下さい。当日の入浴可。
◆ 他のワクチンとの間隔
  新型コロナワクチン 13日以上あいていれば打てます(新型コロナウイルス感染症に係る臨時の予防接種実施要領 P7)
  インフルエンザワクチンを含め、その他のワクチンの接種間隔に制限はありません。詳しくはこちらをご覧下さい。
◆ 注射の回数
  2か月あけて2回。6か月以上あけない。
  6か月以上あいた場合は、なるべく早く2回目を打ちます。初回接種から再び打ち直す必要はありません。
  初回に副反応があっても、確実な効果のために2回目を打ちます。初回の副反応は、2回目の副反応発生を意味しません。
◆ 費用
  注射1回につき22,000円(現金払いのみ)。予約不要。(ごく稀に在庫を切らし、受診当日の接種をご容赦願うことがあります。当日でも結構ですので、受診日を電話でお知らせくだされば今ある在庫から確保いたします。)
◆ 参考資料
  国立感染症研究所:新規帯状疱疹サブユニットワクチン

帯状疱疹は増えている 帯状疱疹は増える傾向にあり、発症率は1997年までの20年間で68%上昇しました(ウイルス.68、2018国立感染症研究所)。その原因は、長寿となったことと、2014年より全ての子が水ぼうそうのワクチンを打つようになり水ぼうそうが減ったことにあります。水ぼうそうのワクチンを2回打った今の子が、帯状疱疹になることは極めて稀ですので、100年先には帯状疱疹は稀にみる過去の病気になると言われています。

公費助成
 文京区名古屋市、大分県国東市、秋田県能代市に住民票がある方は公費助成があります。詳しくは各自治体のホームページをご覧ください。東京電力健康保険組合には、帯状疱疹ワクチン接種費用補助があります。

製薬会社の一般向け説明
 50才を過ぎたら気をつけたい帯状疱疹 阪大微生物病研究会
 50才を過ぎたら帯状疱疹の予防接種ができます 帯状疱疹になりやすい人 グラクソ・スミスクライン
 

2021-10-08 18:36:13

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痛みを繰り返すしこり、化膿性汗腺炎

 脇の下や股、お尻、女性では胸の同じところに、何年にもわたって繰り返す痛いしこりです。ニキビのような小さなプツで始まり、しこりとなり時々痛くなりながら時間をかけて大きくなります。最初はおできと区別がつきませんが、おできと異なり化膿止めの抗生物質や痛み止めの飲み薬がそれ程効かない、激しく腫れてもないのに夜眠れないくらい痛む、切って膿を出しても良くなり切らないといった特徴があります。
 病名に化膿という言葉がついていますが原因は菌ではなく、化膿に似た腫れを起こしやすい毛穴の性格や、体格などが影響していると考えられています。したがって、化膿止めを塗ったり飲んだりしますが、オデキのように1、2回飲むと良く効いてすぐに楽になるとは限りません。ロキソニンなどを飲んでも辛い痛みには強めの痛み止めを処方したり、ブヨブヨしていれば刺したり小さく切って膿を出した後に炎症止めのステロイドを流し込むこともあります。1回の受診で解決し満足できるようになることは少なく、負担の少ない治療から始めその効果をみながら、どうするのがよさそうか医師が提案しますのでそのたびごとに患者さんに選んでいただくことが多いです。このような治療をしてもなかなか治らず繰り返し、初期には診断がはっきりさせられないこともあるため、病院を転々とする人が少なくありません。
 複数のしこりがつながって大きくなったり、膿がしょっちゅう出る場合は手術や腕にする別の種類の注射が有効です。手術は、まとまった休みのとれるときに入院してやります。この注射は1週間に1回打ち、自宅でも出来ます。このような治療をお考えの方には、やっている医療機関を紹介しています。
 欧米ではご家族に似た症状のある方がいらっしゃいますが、日本ではご家族に何人もみられることは極めてまれです。

化膿性汗腺炎 簡単セルフチェック

2019-10-10 12:46:13

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予約制で待ち時間は解決しないのか

 待たずに診察できる予約制は魅力的ですが、解決困難な数々の問題がつきまとうため、多くの医療機関が導入にこぎつけない現状があります。
 まず、予約時間通り診察が進まないことが常態化します。診察してみないと、どれだけ時間のかかる病気か分かりませんし、同じ病気でも詳しい説明を求める方もいらっしゃいます。『次の方がお待ちですので、今日の診察はこれで切り上げます』とはいきません。予約枠が一杯になると、一週間後の予約がとれずずっと先になってしまうとか、急に激しい痛みやかゆみを生じても当日診てもらえず、予約がとれるのは何日も先といったことも起こります。約束の時間に呼ばれない、予約がないと診てもらえないのか、という苦情で受付の職員は疲弊してしまいます。
 また、お年寄りに予約制は不評です。電話やインターネットを使って予約をとる操作に、不慣れだからです。一人でお住まいの認知症の方は少なくなく、今後増えることが予想されます。
 予約制が機能しない原因は、医療制度にあります。最高でも3割払うだけで誰でも同じ医療が受けられる国民皆保険、誰でもどこの病院でも診てもらえるフリーアクセス制、来院した患者さんを正当な理由なく拒んではいけない応招義務などです。外国人が聞いたら夢のような日本の医療の特長と、待たずに受けられる医療サービスの両立は極めて困難で、古くは『3時間待ちの3分診療』といわれ社会問題にもなりました。このため、病院を機能別にする試みがなされ、最近では大病院は紹介状が必要となりましたが、それでも混雑は緩和されないようです。開業医も専門医と家庭医に分けようとする意見がありますが、実現には数々の課題があると聞きます。
 医師なら誰でも、待ち時間にはトラウマがあります。患者からは「いつまで待たせる気か」と怒鳴られ、看護師からは「時間をかけずにさっさと診察して下さい」と急かされ、病院によっては経営者から「待ち時間は短く苦情の来ないように、時間当たりの患者数を増やして売り上げを増やすように」と責められてきたからです。

2019-09-22 18:32:57

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殺虫剤が効かなくなったトコジラミ

 普通の殺虫剤が効かなくなったトコジラミが、知らずに旅行者のカバンなどについて広がり問題になっています。かゆい発疹がトコジラミかどうかは、虫を捕まえたり糞を家の中で見つけることが大切で、かゆい発疹をみただけでは専門家でもはっきりさせるのは困難です。
 トコジラミは昼間は物陰に潜んでいますので、写真1)にあるように寝室の天井から床下まで丁寧に調べます。畳や絨毯はめくり、ベッドは敷マットと枠組みの特に頭の部分をよく調べます2, 3)。ベッドが接触していれば壁も調べ、さらに一日中暗い、テレビの下、本棚、本、タンスの引き出しの裏側の隅、壁に貼ってあるカレンダーや額縁の裏側、剥がれた壁紙の裏側、天井板の継ぎ目などからも糞や生虫が見つかることがあります2, 3)。家具は移動して、探します2)
 また、夜寝てから人を刺しに出てきた虫を捕まえるのも確実です。ベッドに入り部屋の電気を消して20~30分してから起きて、ベッドの上を這う虫を捕まえ、袋にいれた虫を持って皮膚科を受診します。
 このようにしてトコジラミを見つけたら、東京都は専門業者に見てもらい駆除するよう勧めています3)。トコジラミの隠れ家を漏れなく見つけ出しての駆除は、素人には的確にできない恐れがあるからです4)。代表的な業者に、シー・アイ・シーがあります。ご家庭で駆除をする場合は、最近のトコジラミは従来効いていた薬が効かなくなってきていますので、トコジラミ ゴキブリ アースバルサンまちぶせスプレーといったプロボスクルまたはイミプロトリン、メトキサジアゾンの入った殺虫剤を使います。
 このように、トコジラミは見つけ出すのも駆除も厄介です。しかし、刺されても熱がでたり虫から菌が体にうつることはありませんし、トコジラミがいたからといって不潔にしていたわけでもありません。トコジラミは夜寝ている人を刺し、刺された時に痛みは感じません。一番最初に刺されたときは痒みは出ず、刺され続けていると体が反応してかゆみを感じるようになります。

火の付いたようなかゆみの荒波が… 米国発「南京虫」被害が国内で急増中 Aera dot.
 

       
      マンションにお住まいの患者さんが捕まえたトコジラミ
      小さいゴキブリに似ています シラミではなくカメムシの仲間です

1) 公益社団法人日本ペストコントロール協会:衛生動物に関する最近の動向:2018年1月アクセス.

2019-06-25 08:44:45

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ヘルペスを感じたら薬を飲む、PIT: Patient initiated therapy

薬が欲しくても、お出しできないことがあります。 市販薬と異なり、処方薬は医師による判断が必要です診断に必要な出て間もない、できればかさぶたになる前の皮疹を見せていただくか、学会認定皮膚科専門医に相当する単純疱疹に精通した医師の紹介状が必要です。ヘルペスに間違いない、まったく同じ症状を他の医師にヘルペスといわれ薬が出た、辛い痛みにヘルペスの飲み薬が良く効いたといった、患者申告のみによる処方を医療保険は認めません。

 繰り返すヘルペスは、早目の飲み薬が効きます。ウイルスの増殖は水ぶくれになる前に既に始まっており、膿やかさぶたになったらピークは過ぎているからです。薬は早ければその分よく効きますので、出そうだなと感じたらすぐ飲めるよう、あらかじめ薬を出せるようになっています。もらった薬は普段から持ち歩き、単純ヘルペスと分かったらすぐに2回飲みます。ヘルペスは軽くて済み、発疹が出る前の痛みが分かる方では、その時点で飲むと出ないで済むこともあります。ヘルペスが繰り返す場所は問いません。口のヘルペスでも性器ヘルペスでも、同じように効きます。この飲み方はPatient initiated therapy:PITと呼ばれ、海外では何十年も前から行われてきました。
 この治療でも、繰り返さなくすることは残念ながらできません。薬はその時々のウイルスの増殖は抑えますが、潜んでいるウイルスを根絶させる作用はないからです。このため、飲んだら次の分を補充しておく必要があります。月2回繰り返すことがある場合は、その旨医師にお伝えください。
 いつものヘルペスが診察時に出ていたら、今すぐ飲む分と、次回再発時に飲む分の両方の薬を処方できます。薬を出してもらうには、単純ヘルペスに間違いないという診察した医師の判断が必要です。『口が痛くなりネットに出ているヘルペスに似ている』とか、『人からヘルペスだと言われた』というお話しだけでは薬は出せません。それが単純ヘルペスと限らないからです。

単純ヘルペスについて詳しくはこちら

2019-04-06 08:47:26

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