それでもなる、納得できない雰囲気
事の始まりは、園で、『水いぼがあると困る』と感じるニュアンスのこと(放っておくと大変なことになりますよ、今年はプールは無理だね)を言われます。そこで病院に行くと医師は、『放置してよい』と何の役にも立たないこと言うので困り果てるというわけです。これを解決するには防水テープを貼ればよいのか、ラッシュガードを着ればよいのか、取らないと駄目なのか、おかしいとは思いますが親が園に忖度する以外ありません。
このようなおかしなことが起こる背景には、あってはならぬことですが、我が子に水いぼがうつらぬよう厳格な感染対策が必要との根拠のない誤解があります。そのため園としては、保護者から苦情が来ないよう対策を講ぜざるを得ないのではないかと思われます。『水いぼのためプールに入れてもらえない』、『水いぼを指摘され困っている』という保護者の方は少なくありませんが、医療機関は個別のケースごとに保護者の方の後ろ盾になり、プールにいれてもらえるよう、あるいは自然に治るまでそっとしてもらえるよう園との交渉を残念ながらしていません。公にできない事情を、園が抱えているかもしれないからです。
イソジンを買ってきて綿棒で水いぼに毎日つけると、1~2週間して消えることがあります。これは、イソジンで起きた炎症が水いぼウィルスを退治するからです。のどが腫れて、風邪が治るような反応です。必ず消えるわけではありません。
水いぼも、感染してはいけない病気ではないと考えられるのではないでしょうか
水いぼは、ウイルスが原因の感染症で治療法と予防法は確立されていません。しかし、自然と治り、感染してもインフルエンザのような激しい症状は出ません。このような、乳幼児の集団生活施設において現実的な感染対策が無く、軽い症状だけで治ってしまう多くの人がかかる感染症に手足口病があります。手足口病について、
厚労省は「感染してはいけない特別な病気ではない」とホームページに公開しています。水いぼも、感染してはいけない病気ではないと捉えられるのではないでしょうか。
取れば1回で治るか|
徐々に大きくなり、赤く腫れた後に自然と消えて無くなる|
何科に行けば、園が納得する説明をしてくれるか
水いぼは取らないと、水遊びをさせてもらえなかった時代がありました。今でも、麻酔のテープを貼ってピンセットでむしり取る方法はありますが、取っても目に見えないウイルスがいて、しばらくするとまた出てくることがほとんどです。麻酔テープを使っても痛みが全く無くなるわけではなく、血が出るので恐怖感も手伝って結局は『怖い、おうちに帰ろう』と泣き叫ぶことが少なくありません。服に覆われていないところは取るよう言われてのことなのでしょうが、お顔はお願いされても取れません。大きいから、何か月も消えないから、人にうつさないよう取った方が良いという医学的根拠はありません。また、
水いぼが炎症を起こして赤くなるのは化膿しているわけではなく、免疫力が働いて自然と治るときにみられる、蚊に刺されて赤くなるのと同じような反応ですので、プール禁止の医学的根拠にはなりません。
このような保護者や医療機関の立場は、園の管理職(園長先生)にもご理解いただきたい点です。保護者は園に指摘されるたびに複数の医療機関を何度も受診し、「ウイルスが原因でも、感染対策は不要。自然治癒するまで放置してよい」との同じ説明を受け続ける実態があるからです。「うつるものかどうか、あるいは赤く炎症を起こした発疹を医療機関で診てもらうよう」保護者にたたみかけても、「うつされたもの(であり、患児と保護者には何の落ち度もありません。放置してよく、覆うなどの感染対策の必要は無く、プール禁止など園の活動を制限する根拠となりません)」と説明するのが関の山です。園の置かれた立場を考えると、「他人にうつさないよう、覆って隠すか麻酔のテープを使って取る必要があります。新しく出なくなるまで通院し、処置を続けプールは禁止です」、といった説明をお望みと想像しますが、そのような説明をする医療機関はおそらくありません。園が不条理だが公言できない事情をお抱えになり、お困りであろうことは重々承知しておりますが、これ以上の診療は医学的見地から逸脱し困難です。
不条理な事情のため園は水いぼを指摘せざるを得ないのでしょうが、わざわざ指摘する意味などないのではないかという親御さんの疑問を、感じることがあります。それは、最近は減りましたが、どこの病院に行っても治らず、水遊びをさせてもらえずひと夏を過ごす子供を抱えて、何とかならないかと夫婦であるいは祖母と一緒に来院されるご家族を、私を含め多くの医師は毎年夏になると診察してきたからです。言われなく疎外され、医者をはじめ回りの誰も手を差し伸べず、さぞかし寂しい思いをさせたはずです。そのつもりが無くても、結果的に水いぼのある方に無用な負担を強いるのは、もう終わりにしたいものです。
正論は沈黙し、不安が極論に拍車をかける
いつまでも決め手に欠く方法の不毛な議論が、それも人目にさらされる夏の間に限って繰り返されるのは、うつることに対する根拠のない不安と誤解に振り回されているだけなことに、そろそろ社会は気づくべきです。水いぼを覆ったりプール禁止にしても効果は無く、毎年新たに水いぼになる子がいたことは医師も保育者も良く知っています。不十分な感染防止対策が、水いぼの原因では無いのです。
取ると減って気が楽になりますが、目に見えない潜伏期のウイルスが残っていて、多くの場合しばらくすると別のところに新しく出てきます。ハトムギで治ったとおっしゃるお母さんが見せてくださいましたが、気づかないだけで他の場所に新たにできており治っていませんでした(ハトムギは、水いぼに
効能・効果はありません)。水イボへの有効性が科学的に証明された方法はなく、お勧めできる確実な方法は初めからなく、幼児が集団生活を送れば感染は避けられないのです。
誰に頼めばプールに入れるか:感染防止対策の真相と収拾
園を管轄する行政は、一定の感染防止対策が必要としています。厚生労働省は、「
皮膚が接触することにより周囲の子どもに感染する可能性がある。このため、伝染性軟属腫(水いぼ)を衣類、包帯、耐水性ばんそうこう等で覆い、他の子どもへの感染を防ぐ」と、保育所における感染症対策ガイドラインに記載しています。同様に、日本学校保健会は「
直接肌が触れると感染するため、露出部の水いぼは覆ったり、処置したりしておく」と、学校において予防すべき感染症の解説に記しています。
感染防止対策をとる理由を行政は説明していませんが、放置してよいとの社会的合意が得られていないからではないでしょうか。保護者から「園でうつされる」という声が聞こえるうちは、「我が子が水いぼになった原因は、園が感染防止対策を怠ったことにあるので、国は責任を取れ」と言われかねないと行政は気にかけると思います。そう言われないよう、「一定の感染防止対策を取らざるを得ず、水いぼがあるとプールは入れません」という立場に、実務を担う園を追いやってしまうのではないでしょうか。「水いぼは感染してはいけない病気ではない」との社会的合意が今後形成されれば、取り立てたことは起こらなくなるはずです。結局、プールに入れるように誰がしてくれるのかと言ったら、それは主権者である国民すなわち保護者の皆さんなのです。
感染症は、過去から
新型コロナウイルス(新型コロナウイルス感染症に関する偏見や差別を防止するための法律)に至るまで、差別の歴史をきざんできました。「ウイルスは、人のやさしさを嫌う」と元WHOの専門家が説くように、思いやりが水いぼをやっつけます。水いぼを探し出して差別していたのでは、ウイルスの思う壷です。新型コロナでも言われるように、正しく知り、間違って恐れることのないようにしたいものです。
2022-02-11 16:44:22
ウイルス