◆ 原因と予防 痛みと水疱を生じ、
水ぼうそうのワクチンを2回打った人が帯状疱疹になることはまれです。
◆ 症状・診断・検査 チクチクとした痛みを伴う水疱が、体の半分だけに出るのが特徴です。出る場所は決まっておらず、全身のどこにでも出ます。このような症状があれば帯状疱疹を疑い、早めに皮膚科を受診してください。しかし実際の症状は様々で、初期に帯状疱疹と分からないことは少なくありません。腰痛だと思って貼った湿布かぶれや、かゆみで始まると虫刺されと区別できないことがあります。
また、痛みだけが先に出ることがあります。神経痛のようなあるいは激しい痛みだけが、数日から2週間続いた後に発疹が出たり、発疹が出ていたことに気づくことがあります。このような場合は、内臓の病気と区別がつかず、脳外科や内科、整形外科にかかり検査を受けたが異常が見つからず、発疹が確認されて初めて帯状疱疹と診断がつくわけです。帯状疱疹は1回の血液検査で直ぐ分かる病気ではありませんので、痛みが先行した場合には様々な可能性を考えて診察します。痛みイコール帯状疱疹の前兆とは限りませんので、発疹が出なければ痛みだけで帯状疱疹の飲み薬をだすこともできません。
症状から帯状疱疹かどうかはっきりしない場合は、水疱があれば、それを擦ってその場で結果が分かる、インフルエンザのときに鼻でやるような検査が役立ちます。
稀に起こる特殊な症状として、帯状疱疹になった部分の運動神経麻痺があります。例えば、耳に起こると顔面神経麻痺を来すことがあり、片側だけ目が閉じなくなったり、歯を磨いた後に口をゆすごうとすると水が流れ落ちたりします。同様に、尾てい骨や陰部では尿や便が出にくくなることが、お腹では筋肉が緩んでお腹がふくらむことがあります。また、鼻筋や口の中に帯状疱疹ができると、目に症状が出ることがあります。皮膚科医は帯状疱疹に伴うこれらの症状を診察すると、専門とする領域の診療科に診療情報提供書を書いて診察を依頼します。日本皮膚科学会のサイトも参考にされてください。
帯状疱疹の治療法・早期発見のための注意点|NHKジャーナル/愛知医大皮膚科教授
◆ 治療 このように症状から帯状疱疹と分かったら、水ぼうそうのウイルスの増殖を抑える効果のある抗ウイルス薬を7日間内服します。飲み薬には何種類かあります。①の薬は症状をより速やかに穏やかにし、ウイルスに効果的に作用しますがジェネリックがまだなく高価です。②以下の腎臓から排泄されるタイプでは、腎臓が悪い方や高齢者では、薬が体の中に貯まったときにでる眠さなどに注意が必要です。
痛みにはその程度に応じた薬を選び、通常の痛みにはカロナールやロキソニンなどの鎮痛剤で対処します。抗ウイルス薬を1週間飲んでも、かさぶたなどの皮疹と薬を飲むほどでもない軽い痛みは残っていることが殆どです。しかし、飲み薬によりウイルスの活性は無くなっていますので、さらに2~4週ほど皮疹や痛みが落ち着くのを待ちます。症状に応じ、補助的に抗ウイルス薬以外の飲み薬や付け薬を使うこともあります。特別な理由なく、落ち着くのに1か月以上かかることがあります。
最初の1週間程度は、睡眠不足となる勤務を避けるなど体を休めるよう心掛けてください。体力のある壮年期の方でも、連日深夜まで働いたり、早朝と深夜のシフト制だったり、海外出張が続くなどして体を休めないと、薬を飲んでも激しい痛みを伴って新しい発疹が出続けるなど、治りにくいことが経験されます。かさぶたになるか1週間薬を飲めばウイルスは十分に抑えられていますので、痛かったり完全に消えていなくても安静にする必要はなくなり元の生活に戻し、もう一度帯状疱疹が出てくることもありません。
帯状疱疹の飲み薬(抗ウイルス剤)の、3割の方の自己負担額は以下の通りです。
薬の一般名 | 先発品 | 後発品 | 販売開始 | ||
---|---|---|---|---|---|
① | アメナビル | 1日1回 7日分 | 5,600円 | 無し | 2017年 |
② | ファムシクロビル | 1日3回 7日分 | 4,300円 | 1,500円 | 2008年 |
③ | バラシクロビル | 1日3回 7日分 | 4,000円 | 1,500円 | 2000年 |
④ | アシクロビル | 1日5回 7日分 | 2,300円 | 1,000円 | 1988年 |
①は原因ウイルスを大本で止めるため、他の薬には無い優れた効果が特長。腎臓への負担も少なく、高齢者にも使い易い。
②は③に比べると、腎臓への負担がやや少ない。
④は値段は安いが、1日5回飲まなければならない。
◆ 痛みが激しい時 通常の痛み止め(カロナール、ロキソニン等)を飲んでも痛みで夜眠れないときは、うつ状態に使う薬(トリプタノール等)や疼痛治療剤(リリカ、タリ―ジェ、トラマール、トラムセット)が効きます。このような薬は痛みの原因に働くわけではありませんが、痛くない状態を作ると治りやすく、薬を止めても痛くなくなることが経験的に知られています。ですから、強い薬だと嫌厭するのは得策ではありません。痛みに応じて薬の量を加減し、量が多過ぎると眠くなったりふらつくなどの副作用がでます。効く量とふらつく量は人により差がありますので、少量から徐々に増やしていきます。
痛みが長引いてもウイルスが残っていることが原因ではなく、抗ウイルス剤を長期に飲んでも痛みに効果はありません。
◆ ワクチン 帯状疱疹は80歳までに3人に1人、85歳までに約半数がかかるご高齢の方に多い病気です。年をとってからの帯状疱疹は、思いのほか激しい痛みに苦労されることが少なくなく、高齢化が進むなか課題となってきました。帯状疱疹にならない、なっても激しい痛みのない健やかな毎日を送れるよう、50歳以上の方には帯状疱疹のワクチン(予約不要 詳しくはこちら)が認可されています。帯状疱疹になり易くなり、痛みに悩まされることも増える、60才以上の方への接種を専門家は勧めています。
◆ 他人への感染・水ぼうそうのウイルスに対する抵抗力 帯状疱疹の水疱には、水ぼうそうのウイルスがいますので、水ぼうそうにかかったこともワクチンを打ったこともない抵抗力を持たない人には、水ぼうそうとしてうつす可能性があります。しかし実際には、多くの成人は既に抵抗力を持っており、また水ぼうそうと異なり帯状疱疹の人の口からは周囲にウイルスが飛び散ることもありません。このため、帯状疱疹の人の回りで水ぼうそうが発症することは比較的稀です。ただし、お子さんや妊婦さんがいる環境などでは配慮が必要です。幼稚園や保育園における対応は、文部科学省や厚生労働省のガイドラインに従います。発疹はかさぶたになると、ウイルスがいなくなり感染力を失います。帯状疱疹の人が、他人にうつして帯状疱疹を発症させることはありません。
水ぼうそうのウイルスに対する抵抗力は、過去に水ぼうそうにかかっているか、2回の予防接種が母子手帳などで確認できれば、持っていると判断されます。かかった覚えが無くても、子供の時の水ぼうそうは熱もはっきりせず、虫刺されと区別ができない程度の発疹で済んでしまっていることもあり、知らずに抵抗力を持っていることは少なくありません。水ぼうそうのウイルスに対する抵抗力を知るその他の方法として、保険は効きませんが血液検査があります。ウイルスに対する抵抗力のある人が将来帯状疱疹になるかについては、水ぼうそうになったことのある人は80歳までに1/3が帯状疱疹になり、2回ワクチンを打った人は帯状疱疹になることは極めてまれです。
厚生労働省 保育所における感染対策ガイドライン 2018年改訂版(P60)
日本学校保険協会 学校において予防すべき感染症の解説(P55)
◆ 再発 帯状疱疹は1回しかかからないことが殆どですが、健康上の問題なく繰り返すことが稀にあります。繰り返すとしても何年も後の話で、治って数週間~数か月してまた出てくることはなく1年以内の再発は極めてまれとされています。見かけは似ているが、帯状疱疹とは異なり年に何回か繰り返す病気に単純疱疹があり、できた水疱を検査すると単純疱疹かどうかが分かります。
帯状疱疹は2度やらないとは言え、人生100才時代ですから10~30才に若くして帯状疱疹になった人は、50年たって80歳になったらもう一度帯状疱疹になるかもしれません。万一のことを考えるなら、60才位になったらワクチンを打てば安心です。
◆ 20~40歳台に帯状疱疹が増えた理由
最近、20~40歳台の子育て世代を中心に、帯状疱疹が増えました。これは、H26(2014)年に水ぼうそうのワクチンを1歳になると全員打つようになり、環境中の水ぼうそうのウイルスが減って刺激を受けなくなったためです。
急増中!帯状ほう疹 NHK ためしてガッテン
帯状疱疹大規模疫学調査「宮崎スタディ(1997-2017)」アップデート 国立感染症研究所
Q 汁が付くと、皮膚から皮膚にうつりますか。
A 帯状疱疹や水ぼうそうのウイルスは皮膚から皮膚にうつることは出来ず、汁がついても皮疹は拡大しません。目のまわりの皮疹にいるウイルスが、目の中にうつることもできません。
Q 人にうつりますか。学校や保育園、幼稚園に行けますか。孫に会えますか。
A 成人の殆どは既に水ぼうそうにかかったことがあるか、水ぼうそうのワクチンを打ちウイルスに対する抵抗力を持っていますので、人への感染に特別な注意を払う必要はありません。ただし、水ぼうそうにかかったこともワクチンを打ったことも無い子供(H26〔2014〕年から1歳になるとワクチンを打つようになりました)には、水ぼうそうとしてうつる可能性があります。しかし、帯状疱疹の水疱にウイルスがいても、水ぼうそうのように口から大量のウイルスが出て空気中に飛び散ることはありませんので、実際には帯状疱疹の人と接して水ぼうそうになることはまれです。
かさぶたになれば他人への感染力は無くなりますので、それまでは念のためお孫さんなど小さなお子さんと接しないよう配慮される方が多い様に思います。保育園、幼稚園や学校に関しては、厚生労働省 保育所における感染症対策ガイドライン(P60)や日本学校保険協会 学校において予防すべき感染症の解説(P55)を参照ください。
帯状疱疹になってから、およそ3か月たっても痛みがとれないものをいいます。
痛みの程度は様々で、むずむずと虫が這った様な痛がゆさ、風が吹いたときのピリピリ感などを訴える方が殆どです。このようなときの飲み薬として、体に負担の少ないノイロトロピンがあります。しかし、中には重症な方もいらっしゃり、内臓を握りつかまれた様な何とも形容しがたい重苦しさや、釘でえぐられ気絶しそうになるほどの突然襲ってくる痛みに悩まされることもあります。 このようなそれまで経験したことの無い激しい痛みは、心臓の病気や癌による痛みなどと同様に精神的に大きな負担となります。
治療には、トリプタノールやデプロメールといった抗うつ薬、リリカに代表される疼痛治療剤、トラマールなどの麻薬性鎮痛薬が有効です。ふらつきなどの副作用に注意しながら、少ない量より飲み始めると楽になり、夜痛みで目が覚めることも無くなります。これらの薬は痛みを止めるだけの対症療法ですが、薬を止められることも稀ではありませんので、強い薬だと思って嫌厭し、痛みを我慢し続けるのは得策ではありません。ご高齢の方も、安全に長期に使っています。
ご高齢の方は帯状疱疹に伴う長期の痛みにしばしば悩まされるため、50歳以上の方を対象に帯状疱疹のワクチンが認可されています。